都留文科大学学報(第145号)
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2015年に文大に着任しましたが、2016年後期から約1年間、出産・育児休暇を取得したため、本学では丸5年間勤務したことになります。このたび、他大への移動に伴い本学を退職する運びとなりましたが、研究・教育の双方において得難い経験を沢山させていただきました。特に、専任教員としてゼミを持ち、卒論の指導をすることで、大学教員として大きな気づきがありました。人文科学は正解のない学問です。学生が卒論のなかで提起する新鮮な視点に幾度も驚かされましたが、現代の映画作品にしか興味がなかった学生が、黒澤明や小津安二郎、川島雄三といった日本映画の巨匠、名匠を取り上げ、なかには卒論の内容を遥かに超えた優秀な論文を執筆した学生もいました。これまで一人の挫折者もなく卒論を完成させて送りだすことができたのも、私の叱咤激励に見事に応えた彼らの頑張りのおかげです。都留市は残念ながら映画館が一軒もなく、映画学を教えるには不便な場所ではありました。その代わりに、2年続けて世界的にも著名な映画監督である塚本晋也さんと深田晃司さんをお呼びし、上映会とレクチャーを実現させました。このイベントが単なる上映会と異なっているのは、映画で描かれた内容をよく知る比較文化学科の先生たちが監督のトークの聞き手となってくださったことです。塚本監督の『野火』の場合、フィリピンの現代史がご専門の内山史子先生、深田監督の『歓待』では、「異文化共生」及び移民問題の視点から、齊藤みどり先生のご協力を得て、映画のなかの具体的な出来事について作り手と意見を交わすことで、さらなる学びの機会を設けることができました。このような大学ならではの上映会が実現できたのも、欧米、アジア、日本の文化と社会に関する学問を網羅する、学識豊かな教員たちによって構成される比較文化学科ならではの試みであったように思います。このような専門知の集積による取り組みは、比較文化学科だけではないのも私にとっては幸運でした。加藤めぐみ先生の陣頭指揮のもと、文大の先生たちが富士山に関するあらゆる知見を結集させた『大学的富士山ガイド』の刊行もそのひとつであり、この書籍の編集・執筆にかかわることができたことも大きな収穫でした。今年度はコロナ禍により、授業や会議はオンラインに移行し、上映会をはじめとしたイベントが悉く中止となり、不自由な生活を強いられることになりました。私自身もオンライン授業に四苦八苦してしまい、学生と顔を突き合わせて意見交換できる場がいかに重要であったのかを痛感しました。一方で映画の授業の場合は、パソコンで映像を見ながらチャット機能を使ってリアルタイムで感想を書き込んでいくことで、よりインタラクティブな学びにつながるという新たな発見がありました。この厄災を機に、大学教育のあり方が問い直され、今後も学びに対する新たな挑戦が模索され続けると予想されますが、「禍を転じて福と為す」という諺を肝に銘じて、研究・教育の両面において尽力したいと思います。非常勤講師としてもう少しお世話になりますが、本学のさらなるご発展とご健勝を願っております。本当にありがとうございました。比較文化学科准教授 志 村 三代子文大での5年間『歓待』上映後のティーチイン5都留文科大学報 第145号

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