都留文科大学学報(第145号)
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講演会だより今年度の国際教育学科講演会は、本学の特任教授で広島大学名誉教授の町田宗鳳先生により「文明論としての『イワンの馬鹿』」と題しておこなわれた。ロシアの農民に語り継がれ、キリスト教を基にした民話をトルストイがまとめたとされる『イワンの馬鹿』のストーリーを題材に、21世紀の現代において、人間にとって正しい生き方とは何か、本当の幸せとは何かを問いかけ、経済格差が教育格差を生み、勝ち組、負け組などと言われる社会の課題にどう向き合うかという問題提起をされた。イワンの2人の兄のように欲深い人は悪魔に騙されるが、イワンのように、兄達のわがままな主張も受け入れてあげるような欲のない人は悪魔につけこまれることもないという教訓話から、いくら出世をしたりお金があっても、家庭が幸せでなかったり、人間関係に悩んだり、体がぼろぼろという状態では幸せとは言えず、今あるもので満足し、心が満ち足りた人、何事にも心から感謝できる人、家族が仲良く暮らせることの方が幸せであることを諭された。「物の(消費)文明」から「心の文明」へと文明の転換期でもある今、社会で活躍することも、自分のやりたいことを通して貢献することであれば良いが、出世やお金儲け(物や形)のためでは、結局本当の幸せは得られないので、目的を間違えないこと、幸せのありかを間違えないことが大切であると説かれた。大きな欲(我欲)を持つと小さな幸せしか得られず、逆に小さな欲しか持たないことで大きな幸せが得られるという逆対応の理を通して、イワンの馬鹿に登場する悪魔とは、自身の欲望のことであると喝破された。自分の生き方に関して答えを知っているのは自分だけであるから、言い訳をせず、努力の方向や目的を間違えず、心の声に耳を傾けて、自分のやりたいことを、世のため人のために愚直にやり抜くことで、本当の幸せを得ることができるという、イワンの馬鹿的な生き方を見直すべき時代であると訴えられた。これまで当たり前のようにしてきたことが当たり前でなくなったパンデミック時代に、今までの生き方を振り返ると共に、今後の生き方を考えさせられる講演となった。(国際教育学科教授 茂木 秀昭)2020年度国際教育学科講演会文明論としての『イワンの馬鹿』パンデミック時代の生き方を問う講師紹介町田宗鳳(まちだ そうほう) 1950年、京都市に生まれる。14歳の時周囲の猛反対を押し切って突然出家し、臨済宗大徳寺で20年間修行後、34歳で寺を出て、再び無謀にも無一物で渡米。苦学してハーバード大学神学部を卒業後、ペンシルヴァニア大学で博士号を取得し、プリンストン大学、シンガポール国立大学、東京外国語大学、広島大学大学院を歴任。現在、広島大学名誉教授、都留文科大学特任教授。専門は、比較宗教学、比較文明論。宗教学者、天台宗の僧侶。富士山麓にある超宗派寺院「ありがとう寺」住職。 NHKテレビこころの時代『法然を語る』、NHKラジオこころをよむ 『無意識との対話-身心を見つめなおす』講師。著書に『文明の衝突を生きるーグローバリズムへの警鐘』、『人類は「宗教」に勝てるか』『異界探訪』など多数。開 催:2020年12月22日(火)講演者:町田宗鳳氏39都留文科大学報 第145号

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