ブックタイトルフィールド・ノート no.83 Dec.2014

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フィールド・ノート no.83 Dec.2014

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フィールド・ノート no.83 Dec.2014

35を欲しいと思ってくれる人がいるから、天野さんは今でも作り続けている。だから、「ほぐし」を今もやっている理由に「結果として」という言葉を口にしたのだろう。受け継がれる伝統甲斐絹のおもな特徴は平織り(※1)であること、先染め(※2)であること、絹の無むねんし撚糸(※3)を使っていることだ。肌触りはいいが破けやすく、一般的に用いられる布より高価なため、しだいに市場に出回らなくなった。しかし、技術は完全に消えた訳ではなく、天野さんのように新しく取り入れる人々によって受け継がれていく。天野さんは「ほぐし」の今後について、どうなっていくかも分からない将来を気にするより誰かに継ぎたいと思ってもらえるように今をきちんとするしかない、とおっしゃる。今、たくさんの人に「ほぐし」を認めてもらえれば、後継者のことを考えなくても自然と残っていく。笑顔でそう語る天野さん。家系による継承もあるが、新たな人によって受け継がれていくこともある。新たな継承者は、天野さんのように必要とされることに気がつき取り入れる人や、残したいという強い想いから受け継ぐ人とさまざまだろう。それでも、どんな形であれ伝統は続いていく。代々受け継がれていく伝統のイメージが強かったが、それだけではないのだとあらためて感じた。甲斐絹自体は1940年代に都留市からその姿を一度は消すが、甲斐絹の伝統技術を受け継いでいる織物は、今でもきちんと受け継がれている。都留市の織物産業の現状は形を変えて今も残っているのだ。数が減ったからといって必ずしもなくなってしまう訳ではない。時代が変わっても、伝統が残っているということは作り手とそれを認めてくれる人がいるということを意味している。今後、都留の織物産業がどうなっていくかは分からないが、周りから認められる限りこれからも続いていくのだと思った。でもないと天野さんはおっしゃる。熟練した技術を必要とする伝統産業は残していくにも手間がかかる。だからこそ、残そうという強い意志がないと伝統は消えていってしまうという考えが当たり前のように私のなかにあった。しかし、天野さんに「ほぐし」を作り続けている理由を尋ねると、結果として今もやっているだけだ、と答えてくださった。どんなに強い想いがあるからといっても、じっさいにその伝統を仕事として続けていくためには生活できる最低限の収入を得なければならない。産業が消えてしまう理由のひとつはそこにある。「ほぐし」を使った傘生地「ほぐし」を用いた生地を使って作った傘を広げてみせてくださる天野さん(※3)撚よっていない一本の糸。ふつうの糸と比べると細く、非常に切れやすい。(※1)たて糸とよこ糸が一本ずつ交互になっている織り方。(※2)先に色をつけた糸で織ること。